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2019年11月 2日 (土)

水田農業のあり方(その6)

水田農業のあり方(その6)
第2章 水田農業の活路を探る(その3)
第3節 農業経営の厚みを増す

 

専業・準専業の農家や農人経営、農政用語でいう担い手が地域の農業を牽引する。水田農業であれば、少なくとも数集落に一組の担い手が活躍している。そんな農業の構造を形成するためには、経営の形態はどうであれ、職業として農業を本気で取り組んでいる農業者を支援することが何よりも大切である。卵やヒナの段階から担い手を育て上げるための仕組みである。いわば国の「明日の担い手政策」である。

農業者としてのキャリアパスの初期段階において、技術的なトレーニングや生活資金の援助など、それぞれのステージにふさわしい支援策をデザインすることがあってよい。担い手のヒナを受け入れる法人経営や集落営農のバックアップも考えれる。

自立直後の農業者に対するサポートとしては、確かな商職業能力と経営計画を前提に経済的な支援を講じているフランスの例なども参考になる。(註:生源寺真一がこの文章を書いたその年の予算要求で青年就業給付金が要求された。https://www.nca.or.jp/shinbun/about.php?aid=3249


持続的な日本農業を再生するためには、切れ目のない参入が不可欠である。専業農家の子供が農業を注ぐとは限らない。親の代は小規模な兼業農家であった世帯から地域の農業を支える人材が輩出することも考えられる。幼いころから作物や動物に接した経験が農業への本格的な取り組みを後押しすることもかるからだ。

しかし、私は、農業とは縁の薄い非農家からの新規参入が増えることを期待したい。この場合、重要なのは法人型の農業経営がいわば参入者のインキュベータ(孵卵器)として機能していることである。事実、2007年から2009年までの3年間、法人経営などに雇用されて就農した人材は、年平均7700人強に達している。しかも、その6割以上が30代までの若者である。
筆者の提唱する「明日の担い手政策」には、地域の農業の牽引車となる意欲を持った人材であれば、政策的な支援が誰に対しても開かれている状態を作り出すという意味合いもある。つまり、「明日の担い手政策」と一人前の農業者を支援する本格的な担い手政策が連続したパッケージとして用意されていることで、担い手政策はすべての人々が手を挙げることのできるサポートの仕組みとなるわけである。


以上の構想は、しかし、農業に若者や働き盛りの人材を引き付ける力があることが大前提である。関心を寄せる人がいなければ、「明日の担い手政策」も威力を発揮することはできない。ここでも問題は土地利用型農業、なかでも高齢化の著しい水田農業である。もちろん、施設園芸や果樹や畜産のような分野にも経営の巧拙はあり、それが人材の吸引力に違いをもたらしていることも事実である。しかし、この点はここでは触れない。ここでは水田農業を中心とする土地利用型農業に焦点を絞ることとしたい。

人材を引き付けるために大切な点を筆者なりに表現するならば、「経営の厚みを増す」ことである。もちろん、土地利用型農業であるから、職業としての農業経営にある程度の面積は必要である。水田農業の家族経営であれば、10ヘクタール、20ヘクタールといった規模が標準的で当たり前の存在となることに、農業政策のターゲットを置くことを推奨したい。

しかしながら他方で、普通の米や麦や大豆を生産し、そのまま農協に出荷して完結する農業経営のパターンから脱却することも重要である。


農業経営の厚みを増す戦略のひとつは、土地利用型農業の生産物自体の付加価値をめることである。例えば、環境に配慮した減肥料・減農薬の生産物を提供する。有機農業も付加価値をアップする取り組みとして有効であろう。これら環境保全型農業のポイントのひとつは、的確な情報発信を伴っているということである。情報発信の手段はいろいろある。表示による伝達もあれば、インターネットを利用する発信もある。あるいは、例えば生協の産直は産地との交流をひとつの条件にしているが、交流の場におけるコミュニケーションによって生産プロセスの工夫を伝えることもできる。このような多彩な情報発信の取り組みはそれ自体として若い人材を引きつける要素であり、かつ、若者が得意とするジャンルの仕事である。

経営の厚みを増す第2の戦略は、土地利用型農業と集約型農業を組み合わせることで   ある。ある程度の規模の稲作であっても、田植えと稲刈りの超繁忙期を除くと、作業の負担はそれほど重いわけではない。繁閑の差が大きいのが土地利用型農業の特徴なのである。そこに果樹生産や施設園芸を取り込む複合化の余地が生まれる。きのこの施設栽培というケースもある。どんな品目をどの程度の規模で組み合わせるかは地域によって一概には言えないが、この意味で経営の増している実践例はかず多く存在する。土地利用型農業と畜産の組み合わせもある。数こそ少なくなったが、酪農生産と水田農業の複合経営も、水田酪農の名前でよく知られている。

そして経営の厚みを増す第3の戦略が、農業の川下に位置する食品産業の分野に多角化することである。食品産業は加工・流通・外食の三つのジャンルからなっている。水田農業であれば、餅や味噌や団子などがオーソドックスな加工品であり、このほか郷土色豊かな製品を自前の売店で販売する法人経営も少なくない流通・外食と言っても、大仰な取り組みである必要はない。例えば、インターネットによる顧客の注文に応える直売方式も流通業の一翼を担っているわけであり、農村女性が生き生きと活躍する農家レストランは外食産業の一形態なのである。

川下の食品産業への多角化を取り上げたが、観光や体験・横流などのビジネスを取り組むこともあってよい。

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