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2017年9月24日 (日)

反民主主義論(その14)

反民主主義論(その14)

第2章 民主主義の本質(その5)
第2節 イギリスの民主主義について・・・ 近藤康史の「分解するイギリス」 (2017年6月、ちくま新書)より(その3)
3、イギリスとEU(その1)

「分解するイギリス」で、近藤康史は 「イギリスとEU」について次のように述べている。

イギリスにとってEUという争点は、単にヨーロッパ諸国との外交の問題にはとどまらない幅を持つ。EU域内での市場統合がイギリスにどのような利益をもたらすかという点では、経済政策の問題でもあった。また統合が進むにつれてEUで行われた立法が加盟国の法律に影響する事例は増えてきたが、それは主権の問題とも関連している。さらに、イギリスの人々は他の加盟国に比べれば「ヨーロッパ」に対するアイデンティティが弱く、EUの制度に対する信頼性が低いというデータが出ており、人々の認識や文化に関わる問題という側面も持つ。
EUが発展するにつれ、様々な分野に関わる多元的な問題として、イギリスとEUの関係は複雑化してきたのであった。また、このような複合的かつ多元的な争点は、二大政党の対立軸にはすっぽりとは収まらない。そのためEUとの関係をどうするかは、常に党内の対立の火種となってきたのである。

したがって、EU統合が進展すればするほど、つまりEUが多くの政策分野にまたがる存在になればなるほど、イギリス側では対立が複雑化し、混迷が深まるという、いわば反比例のような関係が、イギリスとEUとの間には存在していたのである。


現在のEUの発端は、1951年に、ドイツやフランスほか六カ国によって設立された欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)である。 ECSCはその後、加盟国間で共通の関税制度を適用し、その間での自由貿易の進展を目指して発展した。その結果、欧州経済共同体(EEC)、そして欧州共同体(EC)へと名称が変化するとともに、加盟国も増えていった。
イギリスは、発足当初には加盟していない。かってウィンストン・チャーチルは、第二次世界大戦直後の1948年に、イギリスがソ連に対抗する「三つの軸」の中心になるべきだと論じた。その三つとは、英米からなる大西洋同盟、英連邦、そしてヨーロッパである。とはいえ当時のイギリスは、その三つの中でも英米関係と英連邦を重視していた。
しかし、1956年のスエズ危機でアメリカの支援が得られず、イギリスは作戦の中止を余儀なくされるなど、アメリカとの関係は安定的ではなかった。また戦後において英連邦に対するイギリスの影響力も低下する一方であった。他方で、貿易面を中心にイギリスとヨーロッパとの関係は進展していく。このような状況の下、イギリスは、自由貿易圏でもあるECに加盟することで、市場を広げ、さらなる経済的利益を求めようとしたのであった。
イギリスは、1961年のマクミラン保守党政権時にEEC加盟を、67年のウィルソン政権時にEC加盟を試みるが、二度とも失敗してしまう。その理由は、イギリスの加盟を通じてアメリカの影響力が及ぶことを嫌った、フランスのド・ゴール大統領の拒否であった。ド・ゴール政権が終焉した後の1973年、ヒース保守党政権時に、ようやくEC加盟がかなった。
このころ二大政党のうちでもEC加盟により熱心だったのは保守党の方であった。その理由は、先にも述べたような経済的理由である。また、当時のECは経済統合が中心で政治統合はあまり進んでいなかったため、加盟によってイギリスの主権が脅かされるといったような反対は、保守党内でもまだ多くはなかった。ただし、一部のナショナリストによる批判は、当時から見られた。
むしろ反対が多かったのは労働党内においてである。ECが進める市場統合は、結局のところ企業経営者の利益を優先するような「資本家クラブ」であるとして、労働者を支持基盤とする労働党は警戒した。また、当時の労働党は国有化方針を掲げており、ECに加盟すれば経済における国家の役割は制限され、国有化ができなくなるのではないかという批判も、左派を中心に存在した。
とはいえ、EC加盟反対で労働党が一枚岩になっていたわけではなく、積極派の議員も存在した。EC加盟に関する議会での採決に関して、労働党は最も厳しい「三本のアンダーライン」によって、「反対」を投票するよう指示していたにもかかわらず、69名の労働党議員がそれに反対して「賛成」を投じたとされる。このようにECという問題はこの頃すでに党内対立の火種であり、賛成も反対も政党横断的に形成される構図であった。

それを受けて1975年には、ECに残留するかどうかの国民投票が行われた。この国民投票では、「残留」が70%近くを占め、加盟継続が決まった。


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