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2016年4月17日 (日)

山地拠点都市構想(その137)

山地拠点都市構想(その137)

第6章 山地拠点都市構想の実現に向けて(13)
第2節 中枢都市との「交流」について(7)
6、ビジター産業(2)

「トイレの神様」の持つ哲学や思想には,「リズム」の他に,別の側面がある。それ は、「逆転の思想」「ひっくり返し」の思想というものである。トイレはもともと不浄な ものである。そこに「トイレの神様」が宿ることによって,トイレは聖なる場所に逆転す るのだ。「ひっくり返し」が起るのである。「逆転の思想」「ひっくり返し」の思想を示 す古典としては,能の「蝉丸」がある。これは日本文化のもっとも奥深いところを示して いるように思われるので、以下に能の「蝉丸」を取り上げる。
逆髪(さかがみ)、それは蝉丸の姉に当たるが、その姉は、狂気の果てに、特に留まる ところもなく、全国あちこち「漂泊の旅」を旅している。逢坂の関を彷徨する逆髪(さか がみ)は、 廃屋の中から聞こえる琵琶の音に耳を傾ける。 声をかけられてよくよく見る と、 琵琶の主は弟の蝉丸である。二人は再会を慶ぶとともに、世の情けの薄いことを嘆 く。 逢うは別れであるのだろうか。名残を惜しみながら二人は別れていく。
彼女の髪は逆さに突っ立って、撫でても下がることはない。子供たちが逆髪(さかが み)を笑うのに対して、逆髪は、髪の逆さなることよりも、今は卑賎の身であってももと もと高貴の出である者、そういう者を表面的な見方だけで笑うこと、そのことの方がむし ろ転倒そのものではないかと反問する。
場面はクライマックス、地謡ともども「さかしまの哲学」を詠いあげる。謡曲「蝉丸」 のいうなればクライマックスである。
『 面白し面白し。 これらは皆人間目前の境界なり。 それ花の種は地に埋もって千林 の梢に上り、月の影は天にかかって万水の底に沈む。 これらをば皆何れか順と見逆なり と言わん、我は皇子なれど庶人(そじん)に下り、髪は身上より生い上がって星霜を戴 く。 これ皆順逆の二つなり面白や。』・・・と。
こういう「逆転の思想」「ひっくり返し」の思想は日本の「歴史と伝統・文化」のもっ とも奥深いところだ。平和の思想である。こういう思想的なものも是非世界の人々に知っ てもらいたい。私が「文化観光」の旗を振る所以である。 これは念のため申し上げておかなければならないのであるが,「逆転の思想」「ひっくり 返し」の思想は,なにも密教に限ったことではないということだ。密教は平安の初期に, 見事に怨霊の「ひっくり返し」をやってのけたが、「ひっくり返し」の思想そのものは、 密教が誕生するその以前に,すでに奈良仏教の時代に存在したようだ。

能というものは仏教教学というか仏教思想を一般の人々に判りやすく教えるために,奈 良は興福寺で誕生した。能は、その前身の猿楽を室町時代に世阿弥らが発展させたもので あるが、猿楽は奈良時代に誕生した。奈良仏教の中心は興福寺である。興福寺は不思議な 寺である。東大寺や春日神社とも深い関係を持ちながら,独特の文化を創ってきた。さす が藤原一門の寺である。かの徳一は興福寺の逸材であるが、良弁や明恵も興福寺との関係 は深い。三人とも藤原であって藤原でない。

能は、極めて奥行きの深い芸術である。「野生の精神」が創り出した芸術である。ぜひ 興福寺界隈には多くの人々に足を運んでもらいたいものだ。興福寺界隈には、興福寺だけ でなく、東大寺や春日神社など日本の「歴史と伝統・文化」の心髄を語る上で無くてはな らないものがある。しかし、それらは「野生の精神」が身に付いていないとなかなか見え ないかもしれない。奥深いのである。良弁や徳一や明恵は藤原であって藤原でないのと同 じように聖武天皇も藤原であって藤原でない。奈良時代の偉大な政治家・藤原不比等は中 臣神道を基礎として日本を律令国家を作り上げるが、これに反し、聖武天皇は良弁ととも に、大仏を建立、日本を仏教国に仕立てていく。神道と仏教の違いは大きいが、以後、日 本は、そういう「違い」というものを気にしないで、神道の国かつ仏教の国として成長し ていくのである。各家庭でも神棚があり仏壇がある家が多い。また、結婚式は神道、葬式 は仏教というのが普通であろう。「白でもないし黒でもない、しかし白といえば白、黒と いえば黒」というのが「両頭截断」だが、そういうところに日本文化の心髄「違いを認め る文化」が隠されている。そういうものを世界の人々にも判り易く説明するには、哲学者や宗教家ばかりでなく「野生の精神」を身に付けた芸術家や芸能家の助けが必要であり、 今後日本がビジター産業を育成していく上で「野生の精神」を身に付けた芸術家や芸能家 の役割は大きい。芸術や芸能の発展を心から願う次第である。


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