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2015年5月 5日 (火)

山地拠点都市構想(その76)

山地拠点都市構想(その76)

第1章 山の魅力 第1節 オールランドな山登り・・・京大山岳部の思い出(その2)

 北海道の日高山脈にあるルートルオマップ川の完全溯行は失敗に終わったが、まずは人の行かないところだけに、私たちだけの自慢話がいくつかある。 安田君(元大日本土木社長)と一緒だった。完全溯行もこれで成功かと思った頃、雪渓が我々の行く手を遮った。今にも崩れ落ちそうなので尾根に逃げるこ とにしたのだが、雪渓の上を恐る恐る左岸に渡って尾根に取り付こうとしたとき、誰かがトンと足で雪渓を叩いた。その途端、雪渓全体がどどっと一気に崩れ落 ちたのである。皆が渡り終わったときで何ともなかったのだが、寒気が背筋を走った。そのほか、夜のテントの周りを熊にうろうろされた話、寝袋の中までバルサンを焚いてもどうにもならなかった猛烈なヤブ蚊の群れ、背丈の倍ほどもある笹薮の海のなかで身動きが取れ無くなりそうになったこと、ながい冬の分を急い で取り戻すかのようにともかく夏の日高山脈は生命力が旺盛だ。

 そういった難行苦行をして思うのは、やはり自然との付き合いの難しさということだ。特に春先は鳥の声で雪崩が起こることもあるし、私たちは、雪崩の起こりそうなやばい雪渓を通過するときは夜も明けやらぬ早朝とした。沢歩きをしているとしょっちゅう、蝮(まむし)に会うし、薮こぎをしていてスズメバ チに会うことも少なくない。蝮もスズメバチも下手をすると命を落としかねない。見かけたときはできるだけ静かにして、ともかく相手を刺激しないことだ。ちなみに、沢歩きはわらじが一番いい。最近はいろいろ渓流釣り用の地下足袋が出ているが、やはり普通の足袋にわらじを履くのがいい。いちばん滑らないし、いちばん足にやさしい。しかし、もっとも肝心な点は蝮対策である。蝮は紺色を嫌うそうで、紺染めの足袋とズボンを履いていると蝮に噛まれない。能の出そうな 山に入るときは、昔、馬が着けていたような出来るだけ大きな鈴をぶら下げて歩くといい。熊が近付いて来ないのだ。熊の場合はともかく急に出くわさないよう にするのが原則だが、もし近くに来たときは死んだふりをしているのがよい。日高で、私たちはテントの中で死んだふりをして助かった。
 動物と付き合う場合、人間も動物だが、ともかく動物と付き合う場合、相手をむやみに刺激しない方が得策だ。相手の嫌がることはしないほうがよい。 これは「共生」の原則の一例だと思う。こういうことは、オールランドな山登りをやっていると自然に身につくことなのかもしれない。
 ところで私が、これからの文明の在り方、あるいは人間の生き方に関連して思うことは、山登りのように非日常的な体験というよりむしろ日常的な体験の中で、自然とどう付き合っていくのかということである。今、農業や林業は危機存亡の時だと言われているが、農業や林業は、ただ単に食料や木材資源を供給するというだけでなく、文明論的に言って、そこに自然との共生の世界が在るという点にこそ重要な意味がある。今後、我が国が新たな文明というものを意識して「共生社会」を目指すのならば、農業や林業を疲弊させてはならない。農山村地域に広がる自然との共生の世界を大事にしていかなければならない。

 民俗学者の宮本常一は、その著書「忘れられた日本人」の中で自分の祖父について「その生涯がそのまま民話といっていいような人であった。」と述 べ、その生涯を語りながら、子犬や亀、みみずや蟹など、動物と人間が親しみ合い、ともに生きていた世界を描き出している。そして、「世間の付き合い、あるいは世間体というものもあったが、はたで見ていてどうも人の邪魔をしないということが一番大事なことのようである。」と言っている。私が、オールランドな 山登りをやり、身体全体で自然を感じ、そして思うことは、結局は人間の生き方の問題であり、文明の在り方の問題である。農に生きる人、山に生きる人には、自ずと「野生の思考」というか「野生の精神」が身に付くが、私たち町に住む都会の人間はそうはいかない。だからおおいに山登りをやって「野生の精神」を身につける必要がある。これは「野生の精神」と言っていいかどうか判らないが、山では苦しいことが多いし不便なことが多い。私たちが入った頃の京都大学山岳部では、特に山の道具が不足していて山では不便を強いられた。しかし、「足らぬ足らぬは工夫が足らぬ」」と先輩から言われていろいろ工夫もしたし、自ずと苦労は厭(いと)わないようになっていった。こういうものが「野生の心」とか「野生の精神」とどう繋がるのか繋がらないのか判らないが、「野生の心」とか「野生の精神」について私なりにいろいろ考えてみたい。



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