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2015年2月 6日 (金)

熊のことは熊に訊け(その9着床遅延)

熊のことは熊に訊け(その9着床遅延)

岩井基樹は、著書「 熊のことは熊に訊け」( 2010年、つり人社)の中で以下のように述べている。

着床遅延というのは、聞き慣れない言葉かもしれない。北海道ではヒグマの他エゾクロテンなどに見られる繁殖戦略で、交尾期のあと受精卵が着床・妊娠して成長をはじめるまでに一定のタイムラグが遺伝子的に設定されたシステムだ。北海道のヒグマの交尾期は6月前後。そして着床・妊娠が11月〜12月だろう。つまり、約半年の着床遅延があることになる。

何故このようなややこしい戦略になったか?
もちろん、母グマが出産する時期としては冬眠中が明らかに有利だろう。ならば、11月過ぎに交尾すれば良いと思うかもしれないが、その時期は(オスメスともに)ちょうど穴を探し冬眠の準備態勢に入らなくてはならない。交尾期にはオスが活発にメスを探し、時にメスの連れている仔熊を殺すこともあるので、11月交尾母子グマにとってもヒグマ全体にとってもあまり有利ではない。
では、その前の秋の時期というと、これまた食い溜めのラストスパートで忙しく、交尾どころではない。冬眠開けの春は体力が最低でリハビリを行わなければならず、結局、リハビリを終え体力が回復してから食い溜めをはじめる前、つまり、6月前後という線しか交尾にいい時期が浮かんでこない。(中略)

では、着床までの時間は単なるタイムラグかというと、それが違う。夏から秋にかけての食い溜めが正常にできなかった母グマには、どうやら半年間温存された受精卵が着床しない。逆に、食い溜めが不十分にも関わらず妊娠・出産・子育てを絶食の冬眠穴内で行うとすれば、それこそ母子ともに生存が危ぶまれる。完全に解明されている訳ではないが、「食い溜め期に十分食べられなかった母グマは流産してしまう」と言われている所以はここなのだ。
冬期の絶食絶飲を迎えるヒグマにとって食べることは生き抜くことそのものであり、また、お腹の子の生死にかかった母グマにとっては、単に生きること以上の意味があることかもしれない。

ヒグマは単に図体がでかいだけでなく、冬眠戦略・着床遅延など、いくつもの理由でどうしても沢山食べる必要がある。(中略)私たちは、まず「ヒグマは食いしん坊で仕方がない」と認めてやり、その理由のもとでヒト側の戦略を考えなくてはならない。

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