« 霊魂の哲学と科学(その40) | トップページ | 霊魂の哲学と科学(その42) »

2014年8月25日 (月)

霊魂の哲学と科学(その41)

霊魂の哲学と科学(その41)
第6章 霊魂の科学(9)

第5節 私の霊魂論(2)

2、地霊

ゲニウス・ロキ(地霊)とは、現代建築において「ある場所の特有の雰囲気」を指す 言葉である。中村雄二郎は「ゲニウス・ロキは、それぞれの土地がもっている固有の雰囲気であり、歴史を背景にそれぞれの場所がもっている様相である」と説 明している。ゲニウス・ロキ概念は、建築ならびにランドスケープ、タウンスケープ(シティスケープ)等において、その場所の歴史的経緯や雰囲気、変遷を考 慮する必要があると主張するものである。
(1)ローマの「土地の守護精霊」
ラテン語では「genius locī」(ゲニウス・ロキー)と表記する。geniusは英語のspirit(精神・魂・精霊)であり、locīはlocus(場所)の属格単数であ る。したがって、ゲニウス・ロキーとは、ある場所を司る精霊のことであった。ローマ神話において、ゲニウス・ロキーはある場所の守護精霊であり、蛇の姿で 描かれることも多かった。
ゲニウスはもともと、「(父性として子を)産ませる」「生み出す」といった意味のgignoと関連する言葉である。これが守護する精霊・精気の概念に移行した。
ゲニウス・ロキーは土地に対する守護霊であるが、日本の土地の神様や産土神のような鎮守様のようなものではなく、姿形なくどこかに漂っている精気のようなものとされる。
グレッグ・ウルフ教授の論文『古代ローマにおける神性と権力』では、「地区連合が、統治している皇帝のゲニウスに対する定例のいけにえを行 なっていた」とされている。これ

らの265の地区には「ラレース・コンピタレス(Lares Compitales、岐路の神)」を中心として組織された信仰集団があったが、アウグストゥス帝はゲニウス・アウグスティとともにラレース・アウグス ティへの信仰集団に再編した。 皇帝のゲニウスがローマ帝国の「場所」全体の「ゲニウス・ロキ」とされていたということになる。
これらの精霊のローマにおける事例としては、ウィルトシャー・テケナムのセントジャイルズ教会で、ローマ人の建物の残骸で建てたノルマン教 会の壁のレリーフにゲニウス・ロキがみつかる。。これは、若々しい巻き毛のローマのゲニウスが、左手に豊穣の角、右手にパテラ(神酒の皿)を持っている高浮彫りであるが、これまで誤って医神アイスクラー ピウスとされてきた。

(2)アレクサンダー・ポープ
Genius Lociという概念を建築の分野に持ち込んだのは、18世紀イギリスの詩人アレキサンダー・ポープであった。ポープは、建築道楽で有名だった政治家バーリントン卿リチャード・ボイルに宛てた書簡(「バーリントン卿への書簡」、『書簡集4』1731年)において「genius of place」という言葉を使っている。これが建築学に「ゲニウス・ロキ」概念が導入された最初の例であるとされる。
すべてにおいて、その場所のゲニウス(精霊/雰囲気)に相談せよ。
それは水を昇らせるべきか落とすべきかを告げてくれる。
丘が意気揚々と天高くそびえるのを助けるべきか、
谷を掘って丸い劇場にするべきかを教えてくれる。
土地に呼びかけ、森の中の開けた空き地を捕まえ、
楽しげな木々に加わり、木陰から木陰へと移り、
意図したラインを切ったり、方向を変えたりする。
あなたが植えたとおりに塗り、あなたが作ったとおりにデザインしてくれる。
(松永英明訳)

すなわち、建築や造園において、その場所のゲニウス(ゲニウス・ロキ)に適合させようとすることが、趣味のよいものを作り出すことになるというのである。
すべての場所はそれぞれ独特な特質を持っている。それは、物質的な構造だけではなく、どのように認知されるかという点でも同様である。そこ で、建築家やランドスケープデザイナーはこの独特な特質を敏感に察知し、それを破壊するのではなく増強する責任を持つことになる(が、そうでないことが多 い)。

ここにおいて、「ゲニウス・ロキ」概念は、「その場所の特別な雰囲気」という意味が強調されることになった。
クリスチャン・ノルベルグ=シュルツ『ゲニウス・ロキ―建築の現象学をめざして』(Christian Norberg-Schulz, Genius Loci (1979)、加藤邦男・田崎祐生訳 住まいの図書館出版局 1994)では、プラハ、ハルトゥーム、ローマの3都市のゲニウス・ロキを分析しているが、個々の場所ではなく都市単位で考察しているため、一般的なゲニ ウス・ロキ概念とは少々異なっている。なお、本書の邦訳には毛綱毅曠・鈴木博之・松岡正剛の対談も収録されており、貴重な一冊となっているが、絶版である。

(3)日本でのゲニウス・ロキ「地霊」
日本でゲニウス・ロキ概念について最も詳細に語っているのは、鈴木博之である。鈴木博之は、当初ゲニウス・ロキを「土地の精霊」と訳してきたが、後 に「地霊」という訳語を当てるようになった。これについて、「わが国でも土地と精神性との関係を意識する伝統は古来あって、「英雄の出づるところ地勢よ し」とか「人傑地霊」という言葉も存在する」ことから「地霊」という言葉を採用したと述べている。
鈴木博之の地霊に関する著書には、その代表的なものとして『建築の七つの力』(鹿島出版会、1984)がある。

「地霊の力」の項(初出は『アプローチ』1979年夏号所収の「見えないものの力」)で、タウンスケープに絡めて地霊(ゲニウス・ロキ)について述べられている。
「ゲニウス・ロキとは、結局のところある土地から引き出される霊感とか、土地に結びついた連想性、あるいは土地がもつ可能性といった概念になる。」

「地霊の力(ゲニウス・ロキ)という言葉のなかに含まれるのは、単なる土地の物理的な
形状から由来する可能性だけではなく、その土地の もつ文化的・歴史的・社会的な背景を読み解く要素もまた含まれているということである。こうした全体性に目を開くこと、すなわちタウンスケープを、その土 地固有の微地形や歴史性との対応のなかで読み解くことこそが、地霊の力(ゲニウス・ロキ)に対する感受性を生み出すのである。」
「建築的営為とは、地霊の力(ゲニウス・ロキ)を一方に据えてなされてきたものではなかったのか。そしてその集積が都市を作り上げてきたのではなかったか。」
「現代の東京の近代的なタウンスケープを訪れる際にも、われわれはその土地が歴史的必然をもってそのような現状に至っていることを忘れてはなるまい。そうした目をもつとき、はじめて新旧の街並みを統一的に見ることが可能となろう。」

タウンスケープにおいて、その土地の歴史的経緯が重視されており、この視点は続く著書において具体的に展開されることとなる。

« 霊魂の哲学と科学(その40) | トップページ | 霊魂の哲学と科学(その42) »

文化・芸術」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/1117507/57178814

この記事へのトラックバック一覧です: 霊魂の哲学と科学(その41):

« 霊魂の哲学と科学(その40) | トップページ | 霊魂の哲学と科学(その42) »