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2014年6月15日 (日)

明日香と阿知王(その11)

明日香と阿知王(その11)

4、桧隈寺(ひのくまでら)と 於美阿志神社(おもあしじんじゃ)(3)

(3)なぜ檜前寺と於美阿志神社が荒廃したのか?

檜前寺並びに於美阿志神社が無きに等しい状態になってしまったのか?  それには深い理由がある。それをこれから説明したいと思う。

梅原猛は、その著「飛鳥とは何か」(1986年6月、集英社)の中で次のようにいっている。すなわち、

『 天武6年(677)、天武帝が東漢直らに次のような詔(みことのり)を出したのは、はなはだ注目されることである。「なんじらがやから、もとより七つのあやしきことを犯せり。ここを以て、小墾田(おはりだ)の御代(推古朝)より、近江のみかど(天智朝)に至るまでに、常になんじらは謀るを以てわざとする。今わが世にあたりて、なんじらのあしきかたちをせめて、おかしのままに罪すべし。今よりのち、もし犯すものあらば、必ず赦さざるかぎりにいれむ。」 この詔にあるように、漢直は、推古朝から天智朝まで、たえず政治の裏方の主役をつとめたのである。陰謀が、彼らの伝世の業であったのである。「七つのあやしきこと」というものが何であるか分からないが、その中に再三にわたる裏切りがあったことはまちがいがない。政治の世界には、いつも暗いものがある。そしてその政治権力が安定せず、時代が変革を必要としていればいるだけ、陰謀と裏切りがを必要とする。天武帝は、この変革の時代を終わらせる任務を持って、政治の舞台に登場したのである。そういう天武帝に、この政治の裏面で絶大な力を振るっていた東漢氏の存在は、まことに不気味なものに映っていたに違いない。実際、蘇我氏も、藤原氏も、その権力の多くを東漢氏の陰謀と裏切りに負っていた。崇峻を殺し、推古朝を実現したのは東漢の力である。そして、豊浦や飛鳥への都の遷移は、東漢氏の力を借りずには不可能であったろう。そして、この蘇我氏の滅亡も、彼の一族の裏切りのせいであった。以後の数々の策謀、おそらく日本書紀の本文に記せられないさまざまな歴史の秘密に、この東漢氏はかかわっているにちがいない。そして壬申の乱の勝利にも、この東漢氏一族の寝返りが大きく貢献したのである。ここで、東漢直らに異例の詔が出されたのは、このような東漢氏のもつ不気味な力を恐れたためであろうか。ここで天皇は、東漢氏の罪を指摘しながら、それを罰してはいない。ただ、今後はもう許さないと警告しているだけである。私は、この頃は、前に比べれば、東漢氏の役割は少なくなっていたと思う。それは、百済と高句麗の滅亡によって、多くの遺民が日本に亡命したためと、中国との直接な文化的交流によって海外の書物を読み、国際的状況に通じる人間が増えたためである。もはや、書物や技術を東漢氏が独占するわけにはゆかない。』・・・と。

阿知王の末裔東漢氏は、蘇我氏に仕えてその繁栄を誇ったが、中大兄皇子と中臣鎌足が蘇我入鹿を暗殺したのを見て、利あらずと判断、結局は蘇我入鹿を裏切った。結果として中臣鎌足側に貢献したことになるが、天武天皇は東漢氏一族を信用ならぬ一族と認識していたのである。それが上の詔(みことのり)であるが、このような詔が出るということは異例のことであり、東漢氏一族はもちろんのこと、藤原一族の心にも深く浸み込んだであろう。
この天武天皇の詔(みことのり)以降、東漢氏一族は隠忍自重の日々を過ごしたに違いない。やがて、坂上氏は藤原氏に重用されることになるが、それは奈良時代末期から平安時代初期にかけてのことであって、もはや飛鳥時代のことは遠い昔のこととなっていた。仮に阿知王並びに東漢氏一族の栄光が坂上氏の記憶に残っていたとしても、飛鳥の地においてそれを表だてることはまったく意味のないことであった。せいぜい奈良時代末期から平安時代初期にかけて坂上氏一族の支配する地において、祖先神を祀ることが関の山であったのである。

以上述べてきたような事情によって、檜前寺並びに於美阿志神社は、荒れ果ててしまったのである。

しかし、今となっては、中国伝来文化に国民こぞって感謝の気持ちを表す意味からも、また闇に隠れてしまった歴史の真実に光を当てるという意味からも、於美阿志神社の祭りを大いに盛んにしたいものだ。

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