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2014年5月28日 (水)

宗教哲学のおもむき(その2)

宗教哲学のおもむき(その2)

2、信仰と哲学の違い

ヘーゲルは、「精神現象学」で「哲学」という言葉の代わりに「理性」とか「啓蒙」という言葉を使っているが、それらは同じような意味の言葉である。冒頭に申し上げたように、意識には世の中に対して「是とする意識」と「非とする意識」という矛盾する意識がある。そこに着目して哲学をするのがヘーゲル哲学であって、ヘーゲルは「世の中に存在する矛盾する意識を私たち人間の心の中でなんとか統一しようとする、その人類の心の働きが啓蒙であり、理性であり、哲学である」と考える。もちろん、同じことが個人についても言える。自分の心の中に存在する矛盾する意識を自分の心の中で統一しようとする、その自分の心の働きが、その人の理性であり、その人の哲学である。人類的な理性、人類的な哲学によって生まれた文化が「啓蒙」だ。個人レベルで生まれたものが「教養」である。したがって、理性とか哲学という言葉が使われていても、それが人類的な話なのか個人的な話なのかは判らない。しかし、啓蒙という言葉が使われていれば、その話は人類的な話というか世の中全体の話と考えて良い。教養という言葉が使われていれば、その話は個人的レベルでの話と考えて良い。

世の中には、国家や大企業をはじめとして、政治的力、行政的力、経済的力を持った巨大組織がいろいろある。私たちほとんどの人間は、現実を「是」として、まあそうなっているのも仕方がないと「あきらめ」てしまう。しかし、批判的精神の旺盛な人は、現実を「非」として、なんとか現実を改革できないかと必死で考える。人によってさまざまだが、世の中全体としては、巨大組織に対して、「是とする意識」と「非とする意識」という矛盾する意識がそれぞれ分裂した状態で存在することとなる。ほとんどの人は「あきらめの気持ち」を持ちながら現実の苦しい生活を生きていくのだが、その苦しみから逃げるために「信仰」にすがるのである。苦しい時の神頼みという訳だ。このように「信仰」というものは、この世を「是とする意識」が生み出したものである。しかし、この「信仰」というものは、世の中の改革に繋がらない。世の中の改革に繋がるのは、批判的精神の旺盛な人のこの世を「非とする意識」だ。この世には「是とする意識」と「非とする意識」という矛盾する意識がそれぞれ分裂した状態で存在するのだが、この「是とする意識」と「非とする意識」という二つの分裂した意識をなんとか統一できないか、それを「理性」で考え、哲学的な思考を突き詰めていこうとがヘーゲル哲学なのである。

ヘーゲル哲学は、第一に、この世の中にどのような「是とする意識」と「非とする意識」がどのように存在するかをつぶさに観察するところからスタートする。次に大事なのは、その矛盾する意識を自分の心に受け止めて、自分自身の問題として解決しようという強い意志を持つことである。その上で、第三の段階に移るが、それが「理性」の段階であり、哲学の段階なのであって、矛盾する意識が見事に統一された最終段階である。「1、はじめに」の冒頭にこのことを申し上げた。ヘーゲルは、『 私たちは、世の中に対して「是とする意識」と「非とする意識」という矛盾する意識を持っており、その矛盾が信仰と哲学を生み出す』・・・と考えたのであるが、ヘーゲル哲学の優れたところは、「信仰」と「哲学」とが見事に統一されるところにある。「信仰」と「哲学」を分裂された状態のまま置いておくのではなく、その統一を図るのである。

ニーチェは、「信仰」と「哲学」を切り離したまま、反キリスト教の立場から「神は死んだ!」と言った。一方、ヘーゲルは、キリスト教という「信仰」とキリスト教に関する「哲学」を統一することによって、キリスト教の「現代へのよみがえり」の道を見いだした。「1、はじめに」の最後に『 ニーチェは、そのような反キリスト教の立場から「神は死んだ!」と言ったのである。一方、ヘーゲルは、キリスト教を「是」とする意識と「非」とする意識を戦わせながら、弁証法論理によってキリスト教の「現代へのよみがえり」の道を見いだした。』・・・と申し上げたのはそういう意味なのである。ヘーゲルも「神は死んだ!」と言ったが、ヘーゲルの真意は、「現在、キリスト教は陳腐化して死んだも動揺の状態にあるけれど、キリスト教哲学によってキリスト教は「現代へのよみがえり」を果たすだろうという点にある。

ヘーゲルの意識によれば、世の中の意識とは違って、信仰と哲学は分裂してはいない。信仰と哲学は別といえば別だが、同じといえば同じなのである。


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