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2014年1月29日 (水)

四天王寺(その20折口信夫の小説「身毒丸」12)

知られざる四天王寺

その20 折口信夫の小説「身毒丸」12

( 岩井國臣のコメント:非御家人の隠れ里とおぼしき所での出来事である。瓜生野の一座が泊まった郷士の家で、身毒は、この一座の先輩の話を聞いて心に響く何かがあったようだ。先輩は、『 揺拍子。それを、円満井(えんまい)では、えらい執心ぢやと言うぞ。こればかりや瓜生野座の命ぢやろうて、坂下 や氷上の座から、幾度土べたに出額をすりつけて、頼んで来ても伝授さつしやらなんだ師匠が、われらだけにや伝えられた揺拍子を持ち込めば、春日あたりでは大 喜びで、いっぺんに脇役者ぐらいにや、とり立ててくれるぢやろ。根がそのぬつぺりした顔ぢやもんな。・・・けんど、けんど、仏神に誓言(せいげん)を立てて授(さずか)つた拍子を、ぬけぬけと繁昌の猿楽の方へ伝えて、寝返りうつて見ろ。冥罰で、血い吐くだ。』・・・と言った。身毒が感じ入ったのは、揺拍子のことである。
雅楽は雅楽特有の拍子があるし、大和猿楽や田楽にもそれら独特の拍子がある。揺拍子というのは、源内法師率いる瓜生野座の伝統的な拍子であり、それは金春座でも重視されていたらしい。揺拍子は、拡張高く揺れるようなリズムで奏でられるので、その名があるのだろう。私は、縄文時代から継承された自然の中にとけ込むようなリズムであったのではないかと想像している。そのすばらしい揺拍子は、瓜生野座の伝統的な拍子であり、今、源内法師が特に力を入れて身毒に伝授しようとしている。そのことは身毒も十分自覚できるようになった。
そういう心境になったそのときに、身毒は師匠・源内法師の唸るような言葉を聞くのである。「おまへも、やつぱり、父の子ぢやつたのう。信吉房の血が、まだ一代きりの捨身では、収まらなかつたものと見える。」・・・と。この師匠・源内法師の唸るような言葉は身毒の心に深くしみ込む。久しぶりで父を思い出し、身毒はその夜に夢を見る。そして、その翌日、窪田の宿で、続きの夢を見るのである。夢のことであるから、ぼやあっとして霞んでいるのだが、森の中を歩きに歩いたその先に柴折門(しおりもん)があった。身毒は、人懐しさに、無上に這入りたくなつて 中に入り込む。庭には白い花が一ぱいに咲いている。小菊とも思われ、茨なんかの花のようにも見えた。つい目の前に見える櫛形の窓のところまで、いくら歩いても歩きつかない。半時も歩いたけれど、窓への距離は、もと通りで、後も前も、白い花で埋れてしもうたように見えた。彼は花の上にくづれ伏して、大きい声をあげて泣いた。すると、すぐ近くに物音がしたので、ふつと仰むくと、窓は頭の上にあつた。そうして、その中から、くつ きりと一つの顔が浮き出ていた。どうも父の顔らしい。苦労の末にやっと父に会えたのである。夢の中の話だから、ぼやあっとして霞んでいるのだが、折口信夫は身毒の夢を書きながら、身毒を父に会わせている。そして、折口信夫は、『 身毒の聨想(れんそう)が、ふと一つの考えに行き当つた時に、跳ね起された石の下から、水が涌き出したやうに、懐 しいが、しかし、せつない心地が漲(は)つて出た。そうして深く深くその心地の中に沈んでいつた。山の下からさつさらさらさと簓(ささら)の音が揃(そろ)うて響いてきた。鞨鼓(かっこ)の音が続いて聞え出した。身毒は、延(の)び上つて見た。しかしその辺(あたり)は、山陰になつていると見えて、それらしい姿は見えない。鞨鼓(かっこ)の音が急になつてきた。』・・・と書いているのである。つまり、夢の中のことではあるが、身毒は、父と会うことによって、自分の行くべき道をはっきりと自覚するのである。それは、父から受け継いだ原罪をしょいながら、父の芸術「揺拍子」を受け継いでいかなければならない、それが身毒の宿命である、折口信夫はそう言っているのである。すなわち、折口信夫は、
「 身毒は立ち上つた。こうしてはいられないという気が胸をついて来たのである。」・・・と書いているのである。 )



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