« 二つの政治形態(その2天命政治) | トップページ | 司馬遷の史記について(その1概要) »

2013年10月17日 (木)

二つの政治形態(その3孟子の天命思想)

二つの政治形態(その3孟子の天命思想)

書経(しょきょう)は、政治史・政教を記した中国最古の歴史書。堯舜から夏・殷・周の帝王の言行録を整理した演説集である。その原型は周初の史官の記録にあると考えられている。儒教では孔子が編纂したとし、重要な経典である五経のひとつに挙げられている。
古くは「書」とのみ、漢代以降は「尚書」と呼ばれた。「書経」の名が一般化するのは宋代以降である。
その「書経」について、金谷治はその著「孟子」(1966年6月、岩波書店)で次のように説明している。すなわち、
『 五経の一つのである「書経」の内容の中心部は、殷を倒した周王朝がその革命の正当
性を強調した記録である。そこでは、殷王朝の徳が衰えたために新たに周が天命をうける
ことになったと説く。(中略)周王朝の成立、それはおおよそ西歴前12世紀のことと考えられているが、そんな古い頃に、政治は民衆のためにあるべきもので、それをなおざりにすると革命の危険があるという思想が、すでに確立していたのである。』
『 「書経」の中にみられる周初の政治思想を継承して、それを一層はっきりした形で強調したのが、孟子であった。儒教のこの重要な一面が、こののちにも健康な伝統としていき続けたのは、孟子の力によるところが大きかったとしてよかろう。』・・・と。
そして、金谷治はその著「孟子」のなかで、天命思想という政治思想について、次のよう
に説明している。すなわち、
『 門人の万章が、有名な堯から舜への譲位の伝説を取り上げて質問した時のことである。孟子は、天子とても、かってな個人の意志で天下を他人に譲ることはできないと述べ
て、それを「天のしわざ」であるとした。「天のしわざ」とは何であろうか。孟子はその問いを待って、おおむね次のように答えた。「天命と言っても、別に天がものを言う訳ではない。それは人間世界の行事において示される。むかし堯は舜に国家の祭祀を代行させたところ百神に祟りがなく、政務を代行させたところ万事がうまく治まって、人びとも安らかであった。これは、天に推薦して天が承認し、民衆にあらわして民衆が承認したことである。」
『 天命思想という政治思想は、「天子の地位を保証する天意は、民衆の意思によって代
表される」という思想である。』・・・と。
『 天命思想という政治思想は、けっして民主的な思想ではない。(中略)孟子の政治哲学はもとより統治者のために考えられたものである。民衆の立場に身を置いて、民衆に向かって説いたものではない。彼の念願は、混乱した世界を新しい道徳的な政治理念で秩序
づけることであって、民衆の勃興をそのままどこまでも肯定することではなかった。(中略)孟子の天命思想は、民衆のための政治ではあっても、民衆の権利を正当に認める近代的なデモクラシーの思想では、ついになかった。』
『 道徳とは縁遠い教養を持たない民衆が、いつも被治者として、そして租税を納める義務を持つ者として枠づけられているいう事実は、重要である。それは、封建体制の維持にとっては、きわめて好都合な思想であった。「孟子」という書物が、国教となった儒教の重要な典籍となったのには、やはりそれだけの理由があったのだ。』

以上、孟子の天命思想についての金谷治の説明を紹介したが、どうも金谷治は民主政治を理想の政治形態だと考えているようである。しかし、中国のような民主主義の歴史のまったくない国において、そもそも民主政治が良いのかどうかについては、よくよく吟味しなければならない。つまり、金谷治は「 孟子の天命思想は、民衆のための政治ではあっても、民衆の権利を正当に認める近代的なデモクラシーの思想では、ついになかった。」と言うが、それはその通りだとしても、問題は、中国のような国ではたしてデモクラシーの思想で統治していくのが良いのかどうかという問題であるし、さらに金谷治は「 孟子の天命思想は、 封建体制の維持にとっては、きわめて好都合な思想であった。」と言うが、中国がこれから近代化を進めていく上で、孟子の天命思想がいちばんふさわしいのかどうかという問題である。この問題は、中国を統治していく上での根本的な問題であって、孟子の天命思想の対極にあるデモクラシーの思想で良いのかどうかという問題である。私は、中国のような5000年の歴史によって成り立っている国においては、やはりその歴史を重んじて、この際、孟子の天命思想に立ち返ることができるかどうか、それが中国の為政者に問われているのだと思う。それを以下において、考えてみたい

« 二つの政治形態(その2天命政治) | トップページ | 司馬遷の史記について(その1概要) »

文化・芸術」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/1117507/53629101

この記事へのトラックバック一覧です: 二つの政治形態(その3孟子の天命思想):

« 二つの政治形態(その2天命政治) | トップページ | 司馬遷の史記について(その1概要) »